第4章 同じ時間を過ごす
「ただ」
少し間を置く。
「俺は、見たことを理由に、距離を変えない」
白井は、ゆっくり顔を上げる。
「……怖く、ないの?」
率直な疑問。
心操は、少し考えてから答えた。
「怖くない、は嘘だ」
正直すぎる言葉。
「でも、お前が“今”制御できてるのも、事実だ」
視線を逸らしながら、続ける。
「……それに」
「……それに?」
「踏み込まない選択も、ヒーローの判断だろ」
白井は、驚いたように目を見開いた。
——踏み込まない、判断。
それは、
彼女がずっと一人でやってきたこと。
でも、
“肯定された”のは初めてだった。
「……うん」
短く、頷く。
⸻
しばらく、二人で夜を眺める。
「……仮免」
白井が、ぽつりと言う。
「取れるかな」
「取るだろ」
心操は即答した。
「白井は、止められることを覚えた」
それは、技術よりも重要な評価だった。
「……心操は?」
「俺は」
少しだけ、言葉を探す。
「声を使わない方法を、増やす」
洗脳に頼らない選択肢。
「……一緒だね」
白井が言う。
「使いすぎない方法を、探してる」
「……ああ」
心操が短く応える。それで、十分だった。
⸻
足音が近づく。
振り向かなくても、分かる。
爆豪だ。
少し離れた場所で、立ち止まる気配。
会話は、そこで自然に終わった。
「……戻る」
心操が立ち上がる。
「……おやすみ」
「……おやすみ」
短い挨拶。
心操は、そのまま宿舎へ戻っていく。
⸻
残された白井は、夜空を見上げた。
——踏み込まない、という選択。
それを、誰かと共有できたことが、胸の奥で静かに残る。
少し離れた場所で、
爆豪は、その背中を見ていた。
言葉はない。介入もしない。
ただ、ここには入らないと決めて。
その決断が、自分を落ち着かせるのか、
遠ざけるのか。
まだ、分からない。
静かな夜を重ねながら、
それぞれの距離を
少しずつ定義していく。
次に動くのは、
誰の心か。