第4章 同じ時間を過ごす
夜の林は、昼間とは別の顔をしていた。
虫の声と、風に揺れる葉擦れの音だけが響く。
宿舎の外。
消灯後の静かな時間。
白井狼薇は、階段に腰を下ろしていた。
体操着の上に羽織ったジャージが、少しだけ冷える。
「……起きてたか」
背後から、低い声。
振り向くと、
心操人使が立っていた。
「……うん」
それだけで、隣に座る。
距離は、拳一つ分。
近すぎず、遠すぎない。
しばらく、言葉はなかった。
⸻
「……今日の訓練」
心操が、先に口を開く。
「……無理、させたか」
問いではない。
責めでもない。
事実を、置いただけ。
「……いいえ」
狼薇は、首を振る。
「必要だった」
それは、嘘じゃない。
「止められたし」
小さく付け足す。
心操は、少しだけ息を吐いた。
「……見えた」
短い言葉。
白井の肩が、ほんのわずかに揺れた。
「全部じゃない」
心操は続ける。
「断片だ。形も、輪郭も、曖昧な」
一拍置く。
「……だから、聞かない」
白井は、目を伏せた。
「……ありがとう」
声は、思ったより静かだった。
「話す気がないなら、無理に言葉にしなくていい」
心操の声は、相変わらず淡々としている。
でも、
その奥にある意思は、はっきりしていた。