第4章 同じ時間を過ごす
翌朝。
林間合宿二日目の空気は、前日より少しだけ張りつめていた。
朝露の残る演習場。
体操着姿の生徒たちが、それぞれの課題に散っていく。
白井は、昨日と同じ場所に立っていた。
その少し前に、心操がいる。
心操人使。
「……今日もやるか」
「……うん」
短い会話。
それで十分だった。
昨日、“見えてしまったもの”について、二人は触れなかった。
触れないまま、
前に進むことを選んだ。
「今日は“引き金”を細かく見る」
低い声が背後から聞こえる。
相澤が、腕を組んで立っていた。
「心操。洗脳を“命令”じゃなく、感情の揺さぶりに留めろ」
「……了解」
「白井」
白井に視線が向く。
「変化を止めようとするな。“気づいた瞬間”を覚えろ」
「……はい」
それは、使え、という命令じゃない。
**“自覚しろ”**という指示だった。
訓練が始まる。
「……少し、集中して」
心操の声が、静かに届く。
白井の意識が、
ほんのわずかに引き寄せられる。
完全な洗脳ではない。誘導に近い。
——大丈夫。
そう思った、その瞬間。
「……っ」
指先が、熱を持つ。
皮膚の感覚が変わる。
爪が、わずかに伸びる。
——ウルフ化。
ほんの、ほんの一部。
腕の表面に、白い毛並みが浮かび上がる。
「……白井」
心操の声が、わずかに揺れる。
——昨日より、進んでる。
それと同時に。
「そこまでだ」
鋭い声。
相澤が、一歩前に出た。
「解除しろ」
心操は即座に個性を切る。
白井の体から、
獣の気配が引いていく。
「……っ、はぁ……」
息を整える。
完全な暴走じゃない。
でも、
境界線は確実に近かった。