第4章 同じ時間を過ごす
山の空気は、思っていたより澄んでいた。
バスを降りた瞬間、肺の奥まで冷たい空気が入ってくる。
「うわー、気持ちいい!」
芦戸三奈が大きく伸びをする。
「はしゃぐな、合宿だぞ」相澤の声が飛ぶ。
簡素な宿舎。
広い演習スペース。
自然を生かした地形。
——学校とは、全然違う。
白井は、無意識に拳を握った。
⸻
初日の訓練は、個性の精度向上が主目的だった。
「林間合宿では、派手な戦闘訓練は行わない」
相澤の声は淡々としている。
「仮免取得を見据えた調整だ。
特に、制御と応用に課題がある者は重点的に見る」
その視線が、
一瞬だけ白井と心操の方に向いた。
心操は、気にした様子もなく頷く。
白井は、視線を落とした。
——分かってる。
伸ばさなきゃいけない。
でも。
「白井、心操」
名前を呼ばれる。
「お前たちは、しばらく仮免に向けて“個性を使う経験値”が足りない」
否定ではない。
事実としての指摘。
「今日は二人で、制御と応用の基礎を反復しろ」
「……はい」
二人同時に返事をする。
自然と、
一緒に行動する流れになった。
⸻
演習エリアの端。
「……無理、しなくていいからな」
心操が、低い声で言う。
「……分かってる」
白井はそう答えながら、
距離を取るように立つ。
個性を使うのは、
正直、好きじゃない。
——制御できている“今”でも、
——完全に安全だとは思えないから。
「まずは小さくいこう」
心操が言う。
「洗脳も、“命令”じゃなくて、誘導くらいで」
「……うん」
訓練が始まる。
心操の声が、静かに響く。
「……一歩、前へ」
白井の足が、わずかに動く。
「……止まれ」
動きが止まる。
問題ない。
制御は、できている。
——でも。
「……次」
心操が声をかけた、その瞬間