第3章 知られていくこと
少し離れたラウンジの入口。
飲み物を片手に、爆豪勝己が立っていた。
二人の姿は見える。
声は、聞こえない。
——静かだな。
ああいう距離も、ある。
朝のランニングとも、
部屋での勉強とも違う。
「……」
何も言わず、踵を返す。
今は、入る場所じゃない。
⸻
ラウンジに残された二人。
「……ありがとう」
白井が、静かに言った。
心操は、少しだけ肩をすくめる。
「礼を言われるほどじゃない」
立ち上がり、去り際に一言。
「……お前が話す日が来たら」
振り返らずに続ける。
「そのときは、ちゃんと聞く」
足音が、遠ざかる。
白井は、ソファに残り、天井を見上げた。
——話す日。
まだ、想像はできない。
でも。
“話してもいい相手がいる”という事実が、
胸の奥で、静かに残った。
知られていくこと。
そして、
初めて“話す”という選択。
その先に待つ日は、もう遠くなかった。