• テキストサイズ

オオカミ少女は愛の夢を見る

第3章 知られていくこと


夜の寮。
廊下の照明は落とされ、
足音も、ほとんどしない。

自販機の前で、
爆豪勝己は立ち止まっていた。

缶を取り出すつもりだった。
ただ、それだけのはずだった。

——見えちまった。

ラウンジの奥。
ソファに座る白井と、心操。

距離は近くない。
でも、離れてもいない。

話し声は聞こえねぇ。
それなのに。

——静かすぎる。

ああいう静けさは、
信頼してねぇと成立しねぇ。

「……チッ」

思わず、舌打ちが出る。

嬉しくないわけじゃない。
あいつが、誰かに寄りかかれる場所を見つけたなら。

それは――
悪いことじゃねぇ。

分かってる。
頭では。

でも。
「……なんだよ、それ」

胸の奥が、
妙にざらつく。

朝、並んで走る時間。
部屋でノートを広げる時間。
課題を片付ける、あの距離。

——あれは、俺だけのもんだ。

そう思ってたわけじゃねぇ。
独占するつもりもなかった。

なのに。

——俺の知らねぇ場所で、
——俺の知らねぇ話をしてる。

それが、
引っかかる。

「……俺は、外かよ」

小さく呟いて、
すぐに否定する。

違う。

自分は、
“外された”わけじゃない。

あいつは、
選んでるだけだ。

話す相手を。
踏み込ませる場所を。

「……分かってる」

缶を開ける。
炭酸の音が、やけに大きく響いた。

嬉しい。
確かに、嬉しい。

あいつが一人じゃねぇことが。

それと同時に。

——俺は、
——どこまで行ける。

その答えが見えなくて、
胸の奥が落ち着かねぇ。

「……クソ」

視線を逸らし、
踵を返す。

今は、
踏み込むときじゃねぇ。

でも。

踏み込まないままでいられるほど、
もう遠くもねぇ。

爆豪は、その矛盾を抱えたまま、
夜の廊下を歩いていった。
/ 231ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp