第3章 知られていくこと
期末試験が終わった日の夕方。
雄英の校舎は、どこか気の抜けた空気に包まれていた。
廊下の端。
人通りの少ない教室で、
白井はパソコンを開いていた。
「……ここ」
一時停止した場面を、心操が覗き込む。
「判断、早かったな」
淡々とした声。
「敵役の動き、よく見てた」
「……轟が、温度制御してくれてたから」
そう答えると、
心操は小さく首を振る。
「それでもだ。あのタイミングで引けるのは、感覚が冷えてる証拠」
褒めているのに、
大げさじゃない。
白井は、少しだけ肩の力を抜いた。
「……ありがとう」
「事実だ」
心操はそれ以上踏み込まない。
“振り返り”は、感情を掘り下げる時間じゃない。
事実を整理する時間だ。
それが、二人にはちょうどいい。
⸻
「……ここ、もう一段詰められたな」
声が増える。
顔を上げると、
轟焦凍が立っていた。
「邪魔だったか?」
「……ううん」
白井が首を振る。
轟は自然に椅子を引き、
三人で机を囲む形になる。
「白井の判断、正確だった」
轟が続ける。
「俺が制御に集中できた」
心操が頷く。
「役割分担が明確だったな。
無理に噛み合おうとしてない」
「……たまたま、相性が良かっただけ」
白井がそう言うと、
轟は少しだけ考えてから答えた。
「相性がいい、というのは偶然じゃない」
静かな断定。
「選び方が似ている」
白井は、その言葉を噛みしめる。
——似ている。
否定されない。
評価されすぎない。
ただ、理解されている。
三人の間に、
変に気を遣う空気はなかった。
誰も、過去を聞かない。
誰も、感情を探らない。
でも、
“同じ場所で戦った”という事実が、
確かに共有されている。