• テキストサイズ

オオカミ少女は愛の夢を見る

第3章 知られていくこと


昼休み前の短い休み時間。
教室はざわざわとした音で満ちていた。

次の期末試験の話題が、あちこちから飛ぶ。
筆記だけじゃない。
実技、分析、状況判断――
雄英の「試験」は、いつだって甘くない。

白井はノートを開き、鉛筆の先で一つの式をなぞっていた。

……分かる。分かるはずなのに、
“最後の一行”だけが綺麗に繋がらない。

「……」

考えれば考えるほど、
頭が固くなる。

そのとき、隣の席の影が動いた。

心操人使が、静かに教科書を閉じる。

「……詰まってる?」

声は小さい。
周りの騒がしさに紛れる程度。

白井は一瞬だけ迷ってから、頷いた。

「……ここ」

ノートを差し出す。

心操は覗き込み、
少しだけ眉を動かした。

「これ、公式の使い方が違う」
淡々と指摘する。

責める言い方じゃない。事実だけ。

「……そう?」

「そう。ここを先に変形して」

心操の指が、ノートの余白をなぞる。
言葉は最小限なのに、筋道がはっきりしている。

白井はその通りに書いて、
一度、止まる。

「……あ」

解けた。
繋がった。

「……助かった」

思ったより素直に言えた。

心操は、頷くだけ。

「この分野、俺は得意なだけ」
言い訳のようで、誇らしさはない。
「お前は判断が速い。そっちの方が難しい」

白井は、少しだけ目を瞬かせた。

――評価されている。
でも、重くない。

心操の言葉は、いつも距離がちょうどいい。

「……ありがと」

心操は「うん」とだけ返し、また本を開いた。

それで終わる。

それが、心地いい。
/ 231ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp