• テキストサイズ

オオカミ少女は愛の夢を見る

第3章 知られていくこと


「おい」

低い声が割り込む。

白井が顔を上げると、
爆豪勝己が机の横に立っていた。

眉が少しだけ寄っている。
機嫌が悪いというより――
納得がいっていない顔。

「どうしたの?」

白井が短く返すと、
爆豪はすぐに言った。

「……なんで俺に聞かねぇんだよ」

教室の音が、少しだけ遠くなる。

上鳴が、数列先で「おっ?」という顔をした。
切島が、口元を押さえて笑いを堪えている。
女子も一瞬だけ視線を向け、すぐに何事もないふりをする。

――みんな、聞こえてる。

白井は、爆豪の言葉の意味を
そのまま“質問”として受け取った。

だから、少しも迷わず答える。

「……勝己の得意分野じゃないから」

爆豪が固まる。

「……は?」

白井は真面目に続ける。

「さっきのは計算式と理論の確認。心操の方が得意」

「だからって」

爆豪の声が一段低くなる。
「聞けるだろ」

白井は首を傾げた。
「……得意な人に聞いた方が早い」

至極、合理的。

爆豪の顔に、言葉にできない何かが浮かぶ。

――違う。
そうじゃねぇ。

言いたいのは、そうじゃねぇ。

でも、口にしたら終わる気がする。

「チッ……」

舌打ちで誤魔化すしかない。

「お前、要領いいくせに、変なとこ鈍いな」
心操がつぶやく

「……そう?」

白井は本気で分からない顔をする。

爆豪は、それがさらに気に食わない。
「……もういい」

吐き捨てて、背を向ける。

去り際に、ぼそっと一言。
「次、俺の得意なとこなら聞け」

まるで命令みたいに。

白井は、少しだけ目を見開いてから、小さく頷いた。
「……分かった」

“分かった”と答えた自分に、
心のどこかが静かに驚いていた。

心操が、前を見たまま言う。

「……爆豪、分かりやすい」

「……分かりやすい?」

白井が小声で聞き返すと、
心操は一拍置いて、短く返した。

「気にしてるだけだろ」

白井は、その言葉を理解しきれないまま、ノートに視線を落とす。

気にしてる?誰が、誰を?

そこに答えがある気がするのに、
白井はまだ
“好意”という可能性を自分に結びつけられない。

——どうして?

自分は、まだ誰かに愛される前提で生きていないから。
/ 231ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp