第3章 知られていくこと
爆豪の部屋は、驚くほど整っていた。
余計な物は少ない。机と、椅子と、資料。
「座れ」
言われて腰を下ろす。
ノートを広げ、白井は課題の該当箇所を指した。
「この判断……私は直感で動いた」
「それで?」
「理由を、うまく言葉にできない」
爆豪は、ノートを覗き込む。
「敵の動き、一瞬ズレただろ」
「……うん」
「そこで“違和感”を拾った。それを書け」
淡々と続ける。
「理屈にすんな。拾った事実を並べろ」
「……感覚を、否定しなくていい?」
「当たり前だ」
即答だった。
「使えるもんは、全部使え」
その言葉に、胸の奥が少し緩む。
「……ありがとう」
「礼はいらねぇ。通るかどうかの話だ」
しばらく、無言で作業が続く。
ペンの音。
ページをめくる音。
近い。でも、息苦しくない。
「……これで、いい?」
ノートを差し出す。
爆豪は一読して、
小さく頷いた。
「問題ねぇ」
それだけ。
でも、その一言で、迷いが消えた。
部屋を出るとき。
「……また、分かんなかったら」
白井が言いかけると、爆豪は振り向かずに答えた。
「聞け」
それだけ。
その夜。
寮のラウンジでは、ひそひそ声が飛び交っていた。
「ねぇ、知ってる?」
三奈が小声で言う。
「狼薇、爆豪の部屋で課題やってたらしいよ」
「え、マジで?」
上鳴が目を丸くする。
「意外すぎる……」
お茶子が呟く。
少し離れた場所で、
轟焦凍が静かに聞いていた。
「……そうか」
それだけ。
同じく壁際で、心操人使が小さく息を吐く。
「……やっぱり、か」
何が、とは言わない。
白井狼薇はまだ知らない。
自分が“助けを求めた”という事実が、
どれほど大きな変化だったのか。
そして、
閉じた部屋で生まれたその距離が、
もう“誰にも見えないもの”では
なくなり始めていることを。
静かに――
だが確実に、
揺れ始めていた。