第3章 知られていくこと
まだ空が薄暗い時間。
雄英高校の敷地は、昼とは別の顔をしていた。
風の音と、自分の足音だけが聞こえる。
白井は、一定のリズムで地面を蹴っていた。
呼吸は整っている。無理はしていない。
――この時間が、一番楽だ。
誰にも見られていない。期待も、役割もない。
ただ、走る。
「……チッ」
後ろから聞こえた声に、白井は足を止めず、横目で気配を探る。
並ぶ影。
爆豪勝己。
「……おはよう」
短く言うと、
爆豪は「うるせぇ」とだけ返した。
それで終わり。
二人は、言葉を交わさずに並走する。
ペースは、ほぼ同じ。
どちらかが合わせているわけじゃない。自然に、だ。
朝の冷たい空気が肺に入る。
余計な思考が削ぎ落とされていく。
――話さなくていい。
それが、ここでは当たり前になっていた。