第2章 距離を、選ぶ
歩きながら、
気づけば隣に心操人使がいる。
「……人、多いな」
「……うん」
短い会話。でも、それで十分。
並んで歩く距離が、
もう特別じゃない。
少し前では考えられなかったことだ。
昼食の店。
席が足りず、自然と詰めることになる。
「ここ、座れ」
短く言われて、顔を上げると、
爆豪勝己が椅子を引いていた。
「……いいの?」
「他に空いてねぇ」
それだけ。
命令でも、配慮でもない。ただの事実。
「……ありがとう」
そう言って座ると、
爆豪は何も言わずに向かいに腰を下ろした。
食事中、特別な会話はない。
でも、
皿を取るタイミングや、
視線が合う瞬間が、
不思議と自然だった。
「白井ちゃん、それ美味い?」
上鳴が聞く。
「……うん、美味しい」
そのやり取りを聞いて、
爆豪がぼそっと言う。
「そりゃそうだ」
理由は言わない。
でも、
“共有している空気”は確かにあった。
帰り道。
夕方の光が、街をオレンジ色に染める。
少し歩き疲れて、
自然と歩調が緩む。
「……今日は」
白井は、言葉を探す。
「……楽しかった」
一瞬、静かになる。
それから。
「だろ!」
切島が即答する。
「こういうの、定期的にやろうぜ!」
「賛成〜!」
三奈が手を挙げる。
誰も、無理に理由を聞かない。
ただ、当たり前のように次を約束する。
その輪の端で、爆豪がこちらを見る。
「……次も来い」
短く、それだけ。
「……うん」
即答だった。
みんなで寮に帰り、
白井は自室のベッドに腰を下ろす。
足は少し疲れている。
でも、胸の奥は不思議と軽い。
——輪の中にいた。
——逃げなかった。
——楽しかった。
どれも、事実だ。
白井は、そっと目を閉じる。
友達と笑う時間。
並んで歩く帰り道。
名前を呼ばれる距離。
そして、
背中を押したまま、
何も言わずに隣にいる人。
——もう、戻れない。
でもそれは、
怖いことじゃなかった。