第2章 距離を、選ぶ
訓練場の隅。
水を飲みながら、無意識に視線をやる。
白井狼薇は、女子たちと話していた。
笑ってはいない。
でも、
逃げてもいない。
その“真ん中じゃない立ち位置”が、
やけに自然で。
「……前より、楽そうじゃねぇか」
小さく、呟く。
気に食わねぇ。でも、悪くもねぇ。
――クソ。
「俺がどうこうしたわけじゃねぇ」
そう思う反面、
頭のどこかで分かっている。
あいつは、押されたんじゃない。
選んだ。
その選択のきっかけに、自分がいた。
それが――
思ったより、落ち着かねぇ。
帰り道。
校門の前で、
白井とすれ違う。
「……勝己」
名前を呼ばれる。
もう、驚かなくなった。
慣れたくもねぇのに。
「……何だ」
「さっきの、ありがと」
短い言葉。
説明も、感情もない。
でも、
“あのときのこと”だと、すぐ分かった。
「別に」
即答する。
「お前が決めたんだろ」
そう言い切った瞬間、
自分でも気づく。
――言い切ってやりたかった。
あいつが、
誰かに押されたんじゃないって。
「……うん」
それだけ言って、
白井は去っていく。
その背中は、
前より、少しだけ軽そうだった。
爆豪は、立ち止まる。
——背中を押した?
違う。
そんなつもりはねぇ。
でも。
逃げ道を塞いで、選ばせた。
それは、
信じてなきゃできねぇことだ。
「……」
無意識に、拳を握る。
守るとか、支えるとか、
そんな綺麗な言葉じゃねぇ。
ただ――
前に立つことを、当たり前だと思ってた。
それが、いつからか、
あいつに対してもそうなってた。
「……チッ」
自覚したくねぇ。
でも、否定もできねぇ。
爆豪勝己はまだ言葉を知らない。
それが、
“特別扱い”の始まりだということを。
そして、
次に来るイベントの日、
その距離がさらに縮むことを。