• テキストサイズ

オオカミ少女は愛の夢を見る

第2章 距離を、選ぶ


放課後の校舎は、昼間より静かだった。
帰路に向かう生徒たちの足音が、ところどころで反響する。

白井は昇降口で靴を履き替えながら、
ふと隣に立つ気配に気づいた。

心操人使。

「……帰る?」

短い一言。
誘いとも確認とも取れる、曖昧な響き。

「……うん」

白井も、それ以上説明しなかった。

二人は並んで校門を出る。
どちらが先に歩き出したわけでもなく、
自然に歩幅が揃った。

会話はない。
けれど、気まずさもない。

――沈黙が、重くない。

それに気づいたとき、
白井は小さく息を吐いた。

「……不思議だね」

ぽつりと、言葉が落ちる。

心操は視線を前に向けたまま、
「何が」とだけ返した。

「話さなくても、平気な人がいる」

言ってから、
“そんなことを口にした自分”に少し驚く。

心操は少し考える素振りをしてから、
静かに言った。

「……無理に話す必要がないだけだろ」

事実だけを切り取った言葉。
慰めでも、同意でもない。

でも、それがいい。

「……そうかも」

白井は頷いた。

夕暮れの道。
影が長く伸びて、
二人の足元を同じ方向へ引っ張っていく。

「クラス、慣れてきた?」

唐突な質問。
でも、踏み込みすぎていない。

「……少し」

正直な答え。

「前より、息はしやすい」

心操は、ふっと鼻で笑った。

「それなら十分だ」

「?」

「“楽しい”とか言い出したら、多分、無理してる」

その言葉に、
白井は小さく目を見開いた。

――分かってる。

自分がどこで無理をするか。
どこまでなら大丈夫か。

「……心操は?」

問い返す。

「俺は、前から変わらない」

淡々とした声。

「でも――」

一拍、間を置く。

「並ぶ相手は、増えた」

それだけ。

白井は、その言葉を噛みしめる。

並ぶ相手。横にいる時間。

それを“増えた”と言える感覚。

「……ありがとう」

理由は言わない。
でも、確かに感謝だった。

「礼を言われることじゃない」

心操はそう言いながら、
歩調を緩めることも、早めることもしない。

ただ、隣にいる。
/ 231ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp