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オオカミ少女は愛の夢を見る

第2章 距離を、選ぶ


休み時間。
廊下に出ると、男子の声が聞こえる。

「白井!」
切島鋭児郎が手を振った。
「今日の午後の組み、同じかもな!」

「……そうだね」

そう答えながら、
“そうだね”という言葉が自然に出たことに、少しだけ驚く。

近くで、
上鳴電気が笑った。

「いやー、ほんとクラスに馴染んだよな。ちょこ〜っとだけ、時間かかっちゃたけど笑」

馴染んだ。

その言葉に、反射的な否定は出てこなかった。

席に戻ると、隣から紙が差し出される。

心操人使だった。

《次の授業、プリント配られるらしい》

「……ありがとう」

小声で言うと、心操は軽く頷くだけ。

会話は、それで終わり。
でも、その沈黙が苦しくない。

並んでいるだけでいい関係。
それが、いつの間にか当たり前になっている。

チャイム直前。

「おい、狼薇」

少し荒い声。

振り向くと、
爆豪勝己が立っていた。

「今日の実技、遅れんなよ」

命令口調。
でも、突き放す感じはない。

「……分かってる」

そう答えると、
爆豪は一瞬だけ目を細めてから、視線を逸らした。

それ以上、何も言わない。

特別なやり取りではない。
けれど、
“声をかける前提”になっていることが、少しだけ不思議だった。

放課後。



教室に残り、ノートをまとめていると、
窓の外から生徒の声が聞こえてくる。

以前なら、
その音を“自分とは関係のないもの”として聞いていた。

でも今は――

「……ここにいる時間、長くなったな」

誰に向けるでもなく、呟く。

A組の教室。
この席。
この時間。

居場所だと断言できるほどではない。
それでも、逃げたい場所ではなくなった。

白井狼薇はまだ知らない。

この“馴染み始めた日常”が、
後戻りできない変化の入口だということを。

そして、
距離を選び始めたその選択が、
やがて誰かの心を大きく揺らすことになるということを。

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