第2章 距離を、選ぶ
朝の教室は、窓から差し込む光がやけに眩しかった。
いつもと同じはずなのに、白井は少しだけ居心地の違いを感じていた。
席に着くと、自然に挨拶の声が飛んでくる。
「おはよ、狼薇ちゃん!」
麗日お茶子の声。
名前で呼ばれることにも、もう過剰に身構えなくなっている自分に気づく。
「……おはよう」
一瞬、敬語が出そうになって、止めた。
それだけのことなのに、胸の奥が少し軽くなる。
「昨日の数学の課題わかんないとこあって、狼薇のノート写していい?」
芦戸三奈が身を乗り出してくる。
「いいよ。」
短い返事。
でも、ちゃんと声が出た。
三奈が満足そうに笑う。
「大丈夫!先生にはバレないようにするから笑」
にししとイタズラっぽく笑う。
以前なら、こういう距離感は避けていた。
拒まなかったとしても、自分から応じることはなかった。
「……そう、してね。」
曖昧に返すと、
八百万百が穏やかに微笑んだ。
「最近、白井さんは、無理をしているようには見えませんわ。
自然に、ここにいらっしゃる感じがします。」
優しく微笑む。
その言葉は、評価でも励ましでもない。
ただの事実として、胸に落ちた。