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オオカミ少女は愛の夢を見る

第1章 転入生 白井狼薇という少女


【狼薇side】

部屋に戻って、制服を脱いでも、
胸の奥のざわつきは消えなかった。

ベッドに腰を下ろし、
天井を見上げる。

「……勝己」

声に出してみて、
また心臓が跳ねた。

――どうして、あんな呼び方をしたんだろう。

考えれば分かる。
無意識だ。

敬語をやめろと言われて、
呼び捨てにして、
その先にあった“名前”。

きっと、
一番自然に口から出た言葉だった。

それが、少し怖い。

今まで、
誰かを名前で呼ぶときは、
距離を縮めてもいい相手だと、
どこかで決めていたから。

「……戻れないな」

小さく、呟く。

呼び方を変えるって、
思っていた以上に、意味が重い。

それでも。

後悔は、なかった。

怖さはある。
でも、拒否したい気持ちは、なかった。

正面から来い、と言われて、
敬語をやめろ、と言われて、
それでも逃げなかった。

――逃げなかった、初めての相手。

「……小さな変化、だよね」

誰に言うでもなく、
自分に言い聞かせる。

大きな決断じゃない。
未来を誓ったわけでもない。

ただ、
距離を取る癖が、少しだけ揺らいだ。

それだけ。

それだけのはずなのに、
胸の奥が、ほんのり温かい。

白井狼薇はまだ知らない。

この小さな変化が、
やがて“夢”ではなく、
現実の感情へと変わっていくことを。

そして、
「オオカミ少女」が初めて見たその夢が、
もう――
一人で見るものではなくなっていることを。

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