第1章 転入生 白井狼薇という少女
【勝己side】
……クソ。
放課後の校舎は、やけに静かだった。
生徒の笑い声も、遠くの方でしか聞こえねぇ。
なのに。
「勝己」
その二文字だけが、頭から離れねぇ。
呼ばれた瞬間の、あの感覚。
胸の奥を、何かで殴られたみてぇな違和感。
呼び捨てでもねぇ。
苗字でもねぇ。
名前。
「……簡単に呼ぶなっつっただろ」
誰もいねぇ廊下で、ぼそっと吐き捨てる。
なのに、
“嫌だ”とは言えなかった。
言えなかった理由が、分からねぇ。
名前を呼ばれるなんて、今まで何度もあった。
家でも、学校でも、ヒーロー科でも。
それなのに――
あいつが呼んだときだけ、
距離が、強引に引き寄せられた気がした。
「チッ……」
壁に手をついて、天井を睨む。
気に食わねぇ。
落ち着かねぇ。
あいつは、
距離を取る癖があるくせに、
一番近い呼び方だけ、無意識に選びやがる。
――意味、分かってんのか。
分かってねぇんだろうな。
だから余計に、タチが悪い。
「……」
拳を握る。
他人扱いできなくなった。
それだけだ。
それだけなのに、
頭から離れねぇ。