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オオカミ少女は愛の夢を見る

第1章 転入生 白井狼薇という少女


二年A組。

「静かに。転入生だ」

扉が開くと、教室の空気がわずかに揺れる。
ざわめきは、純粋な興味と驚きだけ。
警戒も、事情を探る気配もない。

それが、少しだけ怖かった。

「自己紹介しろ」

狼薇は前に出る。

「白井狼薇です」
落ち着いた声。
感情は極力、削ぎ落とす。
「よろしくお願いします」

それ以上は言わない。

「二年から編入って珍しいな」
「どこから来たんだろ」

小さな声が交わされる。

前列で金色の髪が不機嫌そうに揺れた。

「……は?」
爆豪勝己が眉をひそめる。
「今さら編入とか、意味わかんねぇ」

「爆豪」
轟焦凍が静かに制した。
「先生が許可してる」

「チッ」

舌打ちひとつ。
爆豪はそれ以上言わなかったが、視線は白井から外れない。

――見られるのは、苦手だ。

白井は視線を伏せた。

「席は空いてるところ使え」

相澤の言葉に、白井は教室を見渡す。
どこも、人が近い。

一瞬の迷い。

そのとき、教室の後方で椅子がわずかに引かれた。

心操人使。

彼は何も言わず、空いている席を示しただけだった。

白井は短く会釈して、そこへ向かう。

「……ありがとうございます」

「……どうも」

それだけのやり取り。

席に着き、少ししてから――
心操が視線を前に向けたまま、低く言った。

「心操、人使。よろしく。」

ほんの一言。
クラスに向けたものではない。
白井にだけ、聞こえる声。
一瞬だけ迷ってから、小さく頷いた。

「……白井です。よろしく。」

それ以上、言葉は続かない。

説明しない。
踏み込まない。
それでいて、距離を拒絶もしない。

その関係が、心地よかった。

「なんでそこ座るんだよ」

後ろから、苛立った声。

爆豪だった。

「空いてたからだろ」
心操が淡々と返す。

「……チッ」

爆豪は机に肘をつき、視線を逸らした。
理由の分からない苛立ちだけが残る。

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