第1章 転入生 白井狼薇という少女
実技後の反省スペースは、人がまばらだった。
全体講評が終わり、各自が散っていく中で、
白井狼薇は壁際で水を飲んでいた。
――無事に終わった。
制御はできていた。問題は起こしていない。
それだけで、今日は合格だ。
「……おい」
低い声が、背後からかかる。
振り返らなくても分かる。
爆豪勝己。
白井はキャップを閉め、ゆっくりと向き直った。
「……何でしょうか」
自然に出る敬語。
距離を保つための、いつもの癖。
爆豪は眉をひそめた。
「その喋り方」
一歩、近づく。
「いつまで続ける気だ」
「……失礼でしたか」
淡々と返す。
声に感情は乗せない。
その様子に、爆豪は小さく舌打ちした。
「違ぇ」
短く吐き捨てる。
「実技中、ああいう動きできんのに、
今さら“さん付け”だの“ですます”だの、気色悪ぃ」
白井は一瞬、言葉を探す。
「……慣れているので」
「知るか」
即答だった。
「組んだだろ。背中預けたろ」
言葉は荒いが、内容は真っ直ぐだ。
「それでまだ距離取る意味が分かんねぇ」
白井は視線を落とした。
背中を預けた。
確かに、そうだ。
あの瞬間、
彼の判断を疑わなかった。
彼も、自分の動きを信じていた。
「……癖なんです」
小さな声。
「近づきすぎないように、
無意識に……」
「だったら直せ」
被せるように言われる。
「少なくとも、俺の前では」
白井は、思わず顔を上げた。
「……なぜですか」
疑問が胸をよぎる。