第8章 ぬくもりに、名前をつけるまで
それは、
爆豪と話した夜の、翌日だった。
白井は、
自分の胸の内が、
少しだけ変わっていることに気づいていた。
——触れたい。
——キスしたい。
その気持ちは、
消えていない。
でも。
——“どういう意味で触れるのか”
——“何を選ぼうとしているのか”
それを、
ちゃんと考えるようになっていた。
昼休み。
校舎裏の静かな場所。
白井は、
爆豪の隣に立っていた。
距離は、
いつも通り近い。
でも、
無意識に寄りかかることは、しなかった。
「……どうした」
爆豪が、
低い声で聞く。
「……何が?」
「……距離」
白井は、
一瞬だけ迷ってから答えた。
「……少しだけ、
考えてる」
「……昨日、
話したでしょ」
爆豪は、
すぐに理解した。
「……ああ」
「……無理すんな」
即答。
「……してない」
白井は、
小さく笑う。
「……慎重になりたいだけ」
「……勝己と、
ちゃんと進みたいから」
その言葉に、
爆豪の表情が、
一瞬だけ柔らかくなる。
「……それなら、
いい」
放課後。
寮の廊下。
白井は、
爆豪の部屋の前で足を止めた。
「……勝己」
「……何だ」
「……キス、
してもいい?」
確認。
選択。
爆豪は、
驚いた顔をしてから——
すぐに頷いた。
「……ああ」
白井は、
一歩だけ近づく。
昨日までより、
ゆっくり。
焦らない。
唇が、
そっと触れる。
短く、
軽い。
深くしない。
それだけで、
胸が満たされる。