第8章 ぬくもりに、名前をつけるまで
放課後。
雄英の廊下は、少しだけ静かだった。
「……爆豪」
背後からかけられた声に、
爆豪勝己は足を止める。
「……あ゛?」
振り返ると、
そこに立っていたのは、心操だった。
「……少し、いいか」
「……ああ」
短く答えて、
人の少ない場所へ移動する。
「……何だよ」
「……白井のことだ」
その一言で、
爆豪の眉が、わずかに動いた。
「……昨日」
心操は、言葉を選ぶ。
「……白井から、相談された」
爆豪は、
一瞬だけ息を止めた。
「……相談?」
「……ああ」
「……“恋人って、キスの次に何をするのか”って」
——来た。
胸の奥が、
どくりと鳴る。
「……」
爆豪は、
何も言わない。
「……驚いたけど」
心操は続ける。
「……でも、前に進もうとしてるんだと思う。
……怖がってるわけじゃないし、……ちゃんと、
考えたいだけなんだろ」
爆豪は、
視線を落としたまま、
ゆっくり息を吐いた。
——そうか。
——あいつ、
——一人で抱え込まずに、
——誰かに聞いたんだな。
それが。
嬉しかった。
「……」
「……爆豪」
心操が、静かに言う。
「……あいつは、
信じてる」
「……お前を」
その言葉で、
爆豪の胸が、
きゅっと締まる。
「……」
「……だから」
「……ちゃんと、話してやれ」
爆豪は、
小さく笑った。
「……言われなくても、分かっとるわ。」
顔を上げる。
「……俺が、説明する。
……あいつが、知らなくていいことまで、踏み込まねぇ」
「……でも」
一拍。
「……知りたいって思ったことは、
逃げずに答える」
その声は、
迷いがなかった。
心操は、
少しだけ目を細める。
「……それでいい」
「……白井は、自分で選びたいだけなんだ。
……選ばせてやってくれ。」
爆豪は、強く頷いた。
「……ああ。」