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オオカミ少女は愛の夢を見る

第8章 ぬくもりに、名前をつけるまで


俺は、動かない。

握り返さない。
引かない。

——今は、
——俺が選ぶ番じゃねぇ。

「……勝己」

近い。

距離が、
一気に詰まる。

「……私」

声が、
小さく揺れる。

「……勝己に触れると、安心する」

……それは、反則だ。

胸の奥で、
何かが強く鳴る。

——触れられてるのに、
——守りたい気持ちが、
——消えねぇ。

白井の手が、
俺の袖を軽く掴む。

引くわけでも、
押すわけでもない。

ただ、
そこにいる。

「……」

俺は、
歯を食いしばった。

——耐えろ。

——今は、
——耐えるとこだ。

「……狼薇」

声が、
自分でも分かるくらい低い。

「……それ以上、
近づいたら」

一拍。

「……俺、
多分、止まれねぇ」

白井は、
動かなかった。

でも、
手を離さない。

「……うん」

小さく、
でもはっきり頷く。

「……今日は、
ここまでにする」

その一言で、
肩から力が抜けた。

——分かってる。

——ちゃんと、
——同じとこ見てる。

白井が、
一歩下がる。

距離が戻る。

……でも。

胸の中に残った感覚は、
消えない。

触れられた手。
近かった息。
安心するって言葉。

「……クソ」

小さく、
吐き捨てる。

——触れられる側になるって、
——こんなに、
——持ってかれるのかよ。

白井が、
少し照れたように笑う。

「……ありがとう」

何に対してか、
言わなくても分かる。

「……言うな」

顔を逸らす。

「……俺の方が、
耐えてんだからな」

でも。

その言葉に、
嘘はなかった。

触れられて。
選ばれて。
信じられて。

——それでも、
——守りたいと思ってる。

「……ほんと」

心の中で、
静かに思う。

——お前、
——どんどん、
——大事になるじゃねぇか。

次は。

次は、
ちゃんと——

覚悟してからだ。

そう決めて、
俺はもう一度、
白井の方を見た。
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