第8章 ぬくもりに、名前をつけるまで
それは、
大きな決意というほどのものじゃなかった。
ただ。
「……近づきたい」
そう思っただけだった。
午後の授業が終わり、
夕方の寮。
廊下を歩く白井は、
自分の指先を見つめていた。
——触れられることには、
——もう慣れた。
爆豪が近くにいること。
距離を詰めてくること。
守るように立つこと。
全部、
安心できる。
でも。
——触れたい、と思うのは。
——私の方。
それを、
ちゃんと行動にしていいのか。
少しだけ、
怖かった。
爆豪の部屋。
「……これ、
次の提出用だろ」
「……うん」
課題を机に広げ、
二人で並んで確認する。
肩が、
自然に触れる距離。
爆豪は、
何も言わない。
——待ってる。
それが、
はっきり分かる。
白井は、
小さく息を吸った。
「……勝己」
「……なんだ」
「……触れても、
いい?」
その一言で、
空気が変わる。
爆豪は、
すぐに動かない。
ただ、
視線を向ける。
「……嫌なわけ、
ねぇ」
低い声。
「……でも」
「……お前が決めろ」