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オオカミ少女は愛の夢を見る

第1章 転入生 白井狼薇という少女


心操人使。
「……今日、午後も実技だ」

前を見たまま、淡々とした声。

「……ありがとうございます」

それだけの会話。

心操は、昨日と変わらない。距離も、温度も。
その変わらなさに、白井は少しだけ安堵した。

午前の授業が終わり、廊下に出る。

男子のグループが、少し離れたところで話しているのが見えた。

切島鋭児郎、上鳴電気、そして爆豪。

会話の内容までは聞こえない。
でも――

一瞬、爆豪の視線がこちらを掠めた。

逸らされる。
けれど、完全に無関心ではない。

胸の奥が、ほんの少しだけざわつく。

――昨日から、何かが変わった?

理由は分からない。
分からないから、考えない。

狼薇は歩幅を一定に保ったまま、その場を離れた。

午後の実技前。
装備を整えながら、狼薇は深く息を吸う。

――抑える。
――目立たない。

それが、これまで生き延びてきた方法。けれど・・・

「白井」

相澤の声に顔を上げる。

「今日は、判断を見たい。
無理はするな。だが、遠慮もしすぎるな」

それだけ。

叱責でも、励ましでもない。ただの指示。

「……はい」

返事をしながら、
なぜか胸が少しだけ重くなる。

遠慮しすぎるな。

それは――
距離を、変えろという意味だろうか。

開始の合図。

白井は、いつも通り後方支援に回る。

問題なく動ける。
個性も、理性も、制御できている。

それなのに。

視線を感じる。

前方で爆発音が鳴るたび、
爆豪が一瞬だけこちらを確認しているのが分かる。

守っているわけじゃない。
狙っているわけでもない。

――“気にしている”。

その事実だけが、
妙に胸に引っかかった。

実技終了。

大きなトラブルもなく、全員が戻ってくる。

白井は、ほっと息をついた。

「……お疲れ」

すれ違いざま、心操が小さく言う。

「……お疲れさまです」

それだけで、十分だった。

白井狼薇はまだ知らない。

昨日、
自分のいない場所で、
自分の話がされていたことを。

A組の男子たちが、
理由を知らないまま、
それでも彼女を“危なっかしい存在”として認識し始めていることを。

そして――
距離を取る彼女の生き方そのものが、
爆豪勝己の中で、
確実に“無視できないもの”になっていることを。

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