第1章 転入生 白井狼薇という少女
「距離取るやつはいる。俺も、昔はそうだった」
その言葉に、空気が少しだけ変わる。
心操の“昔”を、A組は知っている。
「だな」
切島が即座に言う。
「事情はそれぞれだろ!」
上鳴も軽く笑う。
「ヒーロー科だしな。変わってない方が珍しいわ」
その流れの中で、
爆豪だけが、口を開いた。
「……中途半端なんだよ」
全員の視線が集まる。
「線引くなら、もっと引け。関わるなら、覚悟決めろ」
吐き捨てるような言い方。
「どっちつかずで、一人で抱え込んでる感じが――」
言葉が、止まる。
理由が、うまく言えない。
心操は、そこで初めて爆豪を見る。
怒っている。でも、嫌悪じゃない。
「……それ、気に食わないってだけだろ」
ぽつりとした指摘。
爆豪が睨む。
「は?」
「嫌いなら、もっと無視してる」
心操は視線を逸らさず続ける。
「でもお前、ずっと見てる」
一瞬、空気が凍る。
「テメェ……」
「悪い意味じゃない」
心操はすぐに付け足す。
「ただ、気になってるだけだ」
切島が、間に入るように笑う。
「爆豪ってさ!」
「気になるやつほど絡みに行くタイプだもんな!」
「うっせぇ!」
爆豪は立ち上がる。
「勘違いすんな。あいつが危なっかしいだけだ」
それだけ言って、背を向ける。
「……」
心操は、その背中を静かに見送った。
――なるほど。
理解したわけじゃない。
確信したわけでもない。
ただ一つ、分かったことがある。
爆豪は、白井狼薇を“他人扱いできていない”。
それだけだ。
「心操」
上鳴が首を傾げる。
「爆豪、なんなんだ?」
「さあな」
心操は、淡々と答える。
「でも――」
少しだけ間を置いて、続けた。
「放っとけない距離にいるやつって、一番、厄介だからな」
誰にともなく言ったその言葉が、不思議としっくりきて、
誰も否定しなかった。
白井狼薇はまだ知らない。
A組の男子たちが、
“理由を知らないまま”
それでも彼女を話題にし、考え、受け入れ始めていることを。
そして、
爆豪勝己の苛立ちを、
初めて“言葉にせず理解した人物”が、
すぐそばにいることを。