第1章 転入生 白井狼薇という少女
その動きを、爆豪は見逃さない。
「ほらな」
吐き捨てる。
「そうやって、線引いてんだろ」
沈黙。
廊下の奥から、誰かの笑い声が聞こえる。
日常は続いているのに、
ここだけ、空気が張りつめていた。
「私は――」
白井は、言葉を選ぶ。
「誰かを拒んでいるつもりは、ありません」
「だったら――」
爆豪が言いかけて、止まる。
“だったら、俺も入れろ”
そんな言葉が、喉元まで出かかった。
意味が分からない。
なんでそんなことを言おうとしたのか。
爆豪は舌打ちして、顔を背けた。
「……チッ」
数秒の沈黙。
「……危なっかしいんだよ、テメェは」
低く、苛立ちを押し殺した声。
「余計な線引いて、一人で抱え込んで、いつか爆発すんのが目に見えてる。そーゆーやつ、俺は何回も見てんだよ。」
それは忠告でも、心配でもない。
ただの、苛立ち。
「……気に食わねぇ」
それだけ言って、踵を返す。
「爆豪さん」
白井が、初めて呼び止めた。
爆豪が振り返る。
「私は、逃げてはいません」
静かな声。
「距離を選んでいるだけです」
爆豪は、一瞬だけ黙った。
それから、乱暴に言い捨てる。
「……選び方が下手だ」
そう言って、歩き去る。
残された廊下で、
白井は小さく息を吐いた。
――怒らせてしまった。
――でも、避けられなかった。変な人。構わなければいいのに。
胸の奥に、妙な余韻が残る。
怒鳴られたのに。
拒絶されたわけでもない。
ただ――
真正面から、ぶつかられただけ。
白井狼薇はまだ知らない。
爆豪勝己が感じているのは、
恋でも、独占でもなく、
**「理解できない距離への苛立ち」**だということを。
そしてその感情が、
これから何度も、彼女の前に立ちはだかることを。