第1章 転入生 白井狼薇という少女
更衣室を出た廊下は、少し静かだった。
女子が先に引けて、残ったのは濡れた床と、まだ熱の残る空気。
白井狼薇は、壁際を歩く。いつも通り。
人の流れから半歩ずらした位置。
「……おい」
低く、荒い声。
足を止めなくても分かる。この声は爆豪勝己だ。
白井は、逃げるほど子どもじゃない。
ゆっくり振り返る。
「……何でしょうか」
また敬語。
距離を示すための、癖みたいな言葉。
爆豪の眉が、ぴくりと動いた。
「その喋り方」
一歩、距離を詰めてくる。
近い。意図的だ。
「クラスメイトにする態度じゃねぇ」
「失礼でしたか」
淡々と返す。
声も、表情も変えない。
その“変わらなさ”が、
爆豪には一番癇に障った。
「違ぇよ」
低く吐き捨てる。
「テメェが、全員と距離取ってんのがだ」
白井は、少しだけ目を伏せた。
「……必要な距離です」
「必要だと?」
その言葉を、噛み砕くように繰り返す。
「誰にだよ」
「……私に、です」
一瞬、爆豪は言葉を失った。
言い訳でも、挑発でもない。
ただの事実みたいに言われたのが、気に食わない。
「意味わかんねぇ」
拳を握る。
壁に叩きつけないのは、ここが学校だからだ。
「近づかれんのが嫌なら、嫌って顔しろ。拒むなら、拒め」
白井は、静かに首を振った。
「嫌ではありません」
その否定が、爆豪の神経を逆撫でした。
「じゃあなんなんだよっ!」
声が荒くなる。
「誰とも深く関わらねぇくせに、話しかけりゃ応える。助けりゃ受け取る」
一歩、さらに近い。
「……中途半端なんだよ」
白井は、思わず一歩だけ後ろに下がった。