第6章 揺れる日常、進む背中
夜。爆豪の部屋。
灯りは点けたまま。
ベッドに腰を下ろしても、
眠気は来なかった。
「……クソ」
小さく吐き捨てる。
文化祭の光景が、
何度も脳裏に蘇る。
人混み。
手首を掴んだ感触。
引き寄せた体温。
——考える前に、
——身体が動いた。
「……あれは」
守るため、
だけじゃない。
抱きしめた瞬間。
——取られたくねぇ。
——見せたくねぇ。
——触れさせたくねぇ。
その感情が、
一気に溢れた。
「……独占欲、かよ」
自分で言って、
苦く笑う。
否定しようとしても、
できない。
白井が誰かに囲まれて、
笑っているだけで、
胸がざわつく。
危険じゃなくても。
理由がなくても。
——近づくな、
——俺のだ。
そんな思考が、
自然に浮かんでしまう。
「……最悪だな」
でも。
——嫌じゃねぇ。
むしろ。
——やっと、
——名前がついた。
爆豪は、
自分の手を見る。
あの時、
背中を抱いた腕。
「……守るってのは」
低く呟く。
「離さねぇってことだ」
それは、
ヒーローとしてじゃない。
男としての選択。
「……好き、なんだな。俺ぁ。」
今さら、
隠す意味もない。
どうして抱きしめたのか。
どうして離せなかったのか。
答えは、
最初から一つだった。
「……次は」
天井を見上げる。
「逃げねぇ」
衝動じゃなく。
偶然でもなく。
選んで、手を伸ばす。
爆豪勝己は、
その夜、はっきりと自覚した。
白井狼薇は、
守る存在で、
並ぶ存在で、
——欲しい存在だと。
夜は、静かに更けていく。
そして、
この想いはもう、
戻れないところまで来ていた。