第6章 揺れる日常、進む背中
白井の鼓動が、
一気に跳ね上がる。
爆豪の胸の奥から伝わる心音も、
同じくらい速かった。
「……大丈夫か」
少しだけ、
声が柔らかくなる。
「……うん」
短く答えると、
爆豪の腕がさらに締まる。
守る、というより。
囲う、に近い。
周囲の人波が、
少しずつ引いていく。
それでも、
爆豪は離れない。
「……勝己」
小さく名前を呼ぶ。
「……んだよ」
「もう、
大丈夫だよ」
一拍。
それでも、
腕は緩まない。
「……分かってる」
そう言ってから。
「でも」
ほんの少しだけ、
間を置く。
「離す理由が、ねぇ」
その言葉に、
胸がぎゅっと締めつけられる。
——独占。
——でも、押し付けじゃない。
白井は、
そっと爆豪の服を掴んだ。
拒まない。
逃げない。
それを感じ取ったのか、
爆豪の腕が、
ゆっくりと緩む。
名残惜しそうに、
体が離れる。
「……ん、わりぃ。」
照れ隠しみたいに、
ぶっきらぼうな一言。
「……ありがとう」
白井がそう返すと、
爆豪は顔を逸らした。
耳が、赤い。
「……行くぞ」
そう言って、
今度は自然に手を取る。
指と指が絡む。
今度は、
抱きしめる代わりの距離。
屋台の灯りが、
二人を照らす。
祭りは続く。
人の声も、音も、熱も。
でも。
——ここだけ、静かだった。
爆豪は、
繋いだ手を離さない。
白井も、
その手を握り返す。
文化祭の中で、
一番甘い時間は、
もう始まっていた。