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オオカミ少女は愛の夢を見る

第5章 まだ言葉にしない夏


夏休みの訓練場。
照りつける日差しの下で、A組はいつも通り汗を流していた。

白井は、動きの合間に水を飲み、
自然と一人の姿を目で追ってしまう。

爆豪勝己。

距離は、近すぎない。
でも、離れすぎてもいない。

訓練の合間、
目が合えば、短く頷く。
声をかけるでもなく、
でも、そこにいることは分かる。

——ここにいる。

それだけを、
何度も示すみたいに。

「……狼薇」

爆豪が、低く声をかける。

「水、飲め」
差し出されるボトル。

「……ありがとう」

受け取ると、
爆豪はそれ以上何も言わず、
自分の位置に戻る。

急がせない。
踏み込まない。

でも、
確実に近い。

その様子を、
クラスメイトたちは見逃さない。

「……なんかさ」
芦戸三奈が小声で言う。
「空気、変わってない?」

「うん」
麗日お茶子が頷く。
「爆豪くん、前より狼薇ちゃんに近い」

恋は、
大声で始まらないこともある。

——こうして、
——日常に溶けていく。



夕方。
寮に戻る廊下。

白井は、
背後から並ぶ足音に気づいていた。

「……白井」

振り向くと、
轟が立っている。

「少し、話せるか」

「……うん」

二人は、
窓際の静かな場所へ移動した。

外は、
夕焼けに染まっている。

「……この前の話、返事をもらいたくなったわけじゃねぇが、最近のお前を見てると、ケジメつけた顔してる。話してぇんじゃねえのか?」

轟が、前を見たまま切り出す。


白井は、ゆっくり息を吸った。

「……ちゃんと、考えた」
視線を合わせる。

「私は、好意を受け取るのが、まだ怖い」
正直な言葉。

「誰かの気持ちを、大切にしたいって思うほど、自分が追いつかない」

轟は、静かに聞いている。

「……だから」
白井は、続けた。

「轟の気持ちに、答えられない。期待させたまま、そばにいるのも、できない」

沈黙が続く。
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