第5章 まだ言葉にしない夏
夜の寮。
共有スペースの灯りは落ち、
廊下には足音だけが響いていた。
白井は、
自販機の前で立ち止まる。
「……来てくれて、ありがとう」
隣に立つ
心操に向けて、
そう言った。
「話があるって言われたからな」
声は、いつも通り落ち着いている。
二人は、
人のいないラウンジの奥へ腰を下ろした。
夜風が、
カーテンを静かに揺らす。
⸻
「……先に、言っておきたいんだけど、」
白井が、ゆっくり切り出す。
「この話、もう一人には話した」
心操は、驚かない。
「……爆豪か」
「……うん」
短い肯定。
沈黙が落ちる。
でも、
気まずさはない。
「それでも」
白井は、視線を心操に向ける。
「心操にも、話そうって思った」
「……理由は?」
促しでも、
詮索でもない。
ただの確認。
「心操が、ずっとそばにいてくれたから」
白井は、言葉を選ぶ。
「踏み込まずに、でも離れずに。聞く準備ができてるって、言ってくれたから」
一拍。
「……他の誰かに話す勇気が、初めて持てた」
それは、
信頼の言葉だった。
心操の胸が、
静かに鳴る。
——ああ。
——そういうことか。