第5章 まだ言葉にしない夏
少し離れた場所。
爆豪は、パンを噛みながら黙っていた。
——話題に出るの、早すぎだろ。
「……うるせぇ」
低く言う。
「用事があっただけだ」
「へぇ〜?」
上鳴が笑う。
「用事ねぇ」
爆豪は、視線を逸らした。
——否定、できねぇ。
用事じゃない。
でも、
それ以上の言葉も、
まだ使えない。
⸻
「……白井」
落ち着いた声。
轟が、白井の方を見る。
「無理は、してないか」
昨日の夜を知っている者の、
静かな確認。
「……大丈夫。ありがと。」
白井は、はっきり答えた。
「楽しかった」
その一言に、
場の空気が少し変わる。
「……そっか」
轟は、それ以上言わない。
ただ、
小さく頷いた。
⸻
「……白井」
今度は、
心操が声をかける。
「後で、課題の続きをやるか」
いつも通り。
変わらない距離。
「……うん」
白井は、微笑んだ。
そのやり取りを、
爆豪は横目で見る。
——変わってねぇ。
でも。
——昨日とは、違う。
白井の表情が、
少しだけ柔らかい。
⸻
朝食の時間は、
そのまま流れていく。
大騒ぎにはならない。
詮索も、深追いもない。
でも。
——何かが始まった。
それだけは、
全員が薄々感じていた。
白井は、マグカップを置き、
立ち上がる。
胸の奥に、
小さな熱が残っている。
それは、
まだ名前のない感情。
でも。
——悪くない。
こうして日常の中で、
確実に動き出していく。