第5章 まだ言葉にしない夏
翌朝の寮。
共有スペースには、いつものように朝の気だるさが漂っていた。
パンの焼ける匂い。
コーヒーの湯気。
テレビの音。
白井は、ソファに座り、
静かにマグカップを両手で包んでいた。
——少し、眠かった。
でもそれは、
嫌な疲れじゃない。
「……なぁ」
不意に、
上鳴が声をかけてくる。
「昨日さ、白井ちゃんと爆豪、
一緒に出かけてなかった?」
一瞬で、
空気が止まった。
「……え?」
麗日お茶子が目を丸くする。
「そうなん!?」
「見たぞ〜俺ぇ」
上鳴は悪気なく続けるが、その顔はニヤついていた。
「夕方、二人で歩いてたろぉ!いい雰囲気だったぜ?」
「……」
白井は、少しだけ視線を落とした。
否定する理由は、ない。
でも、
説明する必要もない。
「……うん」
短く答える。
それだけで、
女子たちが一斉にこちらを見る。
「え、デート!?」
芦戸が身を乗り出す。
「……違う」
即答。
「出かけただけ」
それ以上は、言わない。
「でもさ〜」
芦田がにやにやする。
「爆豪と二人って、珍しくない?」