第5章 まだ言葉にしない夏
夏休みの昼下がり。
街は、学生たちの声で少しだけ賑わっていた。
「……ここでいい」
ぶっきらぼうな声で立ち止まったのは、
爆豪。
人混みから少し外れた、小さな通り。
ヒーロー科の訓練とも、雄英高校とも寮とも関係ない場所。
「……連れてきてくれて、ありがとう」
白井がそう言うと、
爆豪は一瞬だけ視線を逸らした。
「礼言われるほどじゃねぇ」
それでも、歩幅は自然と揃っている。
——今日は、
——ヒーロー科2年A組の白井じゃなくて、
——ただの“白井狼薇”。
個性も、過去も、
ここには置いてきた。
⸻
ショッピングセンターでお店をブラブラ見歩き、
人気チェーンのコーヒー店の前で立ち止まる。
「何飲む」
「……じゃあ、それ」
爆豪が同じものを買う。
理由は、特にない。
ベンチに腰を下ろすと、
不意に沈黙が落ちた。
「……なあ」
爆豪が、コーヒーを持ったまま言う。
「お前さ」
「……なに?」
「俺といて、楽しいか」
直球。
白井は、少し驚いた顔をしてから頷いた。
「……うん。それは、クラスのみんなといるのも楽しいけど」
一拍。
「今日は、なんか、違う」
爆豪は、黙ったまま聞く。
「……落ち着く」
それは、
恋を語る言葉じゃない。
でも、
本音だった。
爆豪の胸の奥が、
小さく跳ねる。
——これで、何も思わねぇ方が無理だろ。