• テキストサイズ

オオカミ少女は愛の夢を見る

第5章 まだ言葉にしない夏


夕方の寮。
共有スペースの賑わいは少しずつ引き、
残っているのは、数人分の気配だけだった。

白井は、
テーブルにノートを広げたまま、ペンを止める。

「……静かになったね」

「皆、部屋戻ったな」

隣に座る心操が、
教科書を閉じながら答えた。

約束通り、
課題の続きをするために残った二人。

他意はない。
——少なくとも、言葉にはしない。

「……ここ、分かりづらい」

白井がページを指す。

「公式は合ってる。
でも、この条件だと仮定が足りない」

心操は、淡々と説明する。

声は低く、落ち着いている。
教える、というより
一緒に考える距離感。

「……なるほど」

白井はメモを取りながら頷く。

沈黙が落ちる。
でも、気まずくない。

鉛筆の音。
ページをめくる音。

——心地いい。



「……合宿のあと」

心操が、不意に言った。

白井は、ペンを止める。

「前より、
力を出すのを躊躇しなくなったな」

評価ではない。
観察の共有。

「……うん」

白井は、少し考えてから答えた。

「隠さなくていいって、
分かったから」

心操は、それ以上聞かない。

——今は、ここまで。

代わりに、別の話題へ戻す。

「……この問題、
試験範囲に出そうだな」

「……ほんとだ」

話題は、再び課題へ。

でも、
さっきの一言が、
静かに残る。
/ 231ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp