第1章 転入生 白井狼薇という少女
実技授業の集合場所は、いつもより少し空気が重かった。
理由は分からないが、白井狼薇はそう感じていた。
整列するA組の列。
その端に立ちながら、必要以上に周囲を見ないように視線を落とす。
――余計なことはしない。
――目立たない。
それでいい。
「おい」
低く、荒い声が真正面から飛んできた。
顔を上げるより先に分かる。
この距離感、この圧。
爆豪勝己だ。
白井はゆっくりと顔を上げた。
「……何でしょうか」
敬語。
距離を示すための、意識的な選択。
爆豪は眉をひそめる。
「その喋り方、やめろ」
「?」
「クラスメイトだろうが。
線引いてんの、見え見えなんだよ」
白井は一瞬、言葉を探す。
否定も肯定もしない沈黙。
「線なんて、引いてません」
「嘘つけ」
即答だった。
「テメェは全員と同じ距離取ってる。
近づかせねぇくせに、拒みもしねぇ」
ぐっと距離を詰められる。
周囲の視線が集まるのを感じていた。
それでも一歩も下がらない爆豪。
「それが、何か問題ですか」
爆豪の目が、鋭く細くなる。
「……気に食わねぇ」
理由は言わない。
言えない。
ただ、その距離が、
自分だけを“入れていない”ようで。
「俺からも、逃げんのか」
白井は、はっきりと首を振った。
「私は誰からも逃げてはいません」
――ただ、守っているだけ。
自分を。
そして、周囲を。
「なら、証明しろ」
その言葉と同時に、相澤の声が響く。
「そこまでだ、爆豪。
私語は終わり。実技を始める」
舌打ち。
爆豪は乱暴に視線を逸らす。
「……後でだ」
それだけ言い残して、配置についた。
白井の胸の奥で、
小さく、嫌な予感が芽を出す。