第8章 壁外からの帰還
ユキノ・ベリスタという、
ただ一人の存在へ。
彼女は、育ちの良さから優しさを持ち、
医官としての役割を徹底的に果たし、
しかも、立体機動と治療技術で、戦場でも十分に役立つ。
リヴァイにとって、
失えば取り返しのつかない存在になる。
(これで、リヴァイは俺の計画から逃げられなくなる)
彼の強さを、人類のために使い続ける限り、
ユキノは守られる。
ユキノを失いたくなければ、
リヴァイは戦い続けるしかない。
エルヴィンは、窓から視線を外し、机に戻った。
失った兵士の名簿を眺めながら、
心の中で淡々と計算する。
イザベルとファーランの死は、痛ましい。
だが、必要だった。
リヴァイを、完全に――
人類の刃として、固定するための犠牲。
(お前は、俺の夢のために生き続ける)
リヴァイ。
壁の外の真実を、証明するために。
ユキノ・ベリスタを、守るために。
エルヴィンは、報告書を閉じた。
表情は、いつものように穏やかだ。
だが、瞳の奥に、冷たい光が宿っている。
(次は、もっと大きな賭けに出る)
リヴァイの刃を、
より遠くへ、
より深くへ。
ユキノが、それを繋ぎ止める限り。
エルヴィン・スミスは、
誰にも見せない微笑を浮かべ、
静かに次の計画を練り始めた。
壁外調査は、終わった。
だが、彼の夢は――
まだ、始まったばかりだ。
犠牲は、必ず意味を持つ。
それが、エルヴィンの信念だったから。