第8章 壁外からの帰還
ユキノの背中が、すぐ横にあった。
温かかった。
(……これで良かったのか?)
遺体を回収しようとして、
そのまま死ぬつもりだった。
でも、ユキノが引き止めた。
生きて帰れ、と。
(クソ……生きて帰って、何になる)
イザベルがいない。
ファーランもいない。
地下街から、三人で這い上がってきたのに。
二人を、守れなかった。
自分の強さが、足りなかった。
(俺は……最強じゃ、なかった)
その事実が、胸を抉る。
痛い。
息が、苦しい。
リヴァイは、壁に拳を叩きつけた。
音が、響かない。
ただ、手が痛むだけ。
(お前ら……ごめん)
イザベル。
ファーラン。
お前らの笑顔を、
守れなかった。
馬舎で、ユキノに教わって、
少しずつ変わったと思ったのに。
優しさに触れて、
信頼なんてものを、信じかけたのに。
全部、無駄だった。
壁外は、そんな甘い場所じゃない。
強さだけが、すべてだ。
(……でも)
ユキノの顔が、浮かぶ。
あの時、腕を掴んだ手。
震えていたけど、離さなかった。
お前は、俺を引き戻した。
一人にさせなかった。
(お前を……失いたくなかった)
その感情が、胸を焼く。
イザベルとファーランを失った痛みの上に、
ユキノを失ったらと思う恐怖が、重なる。
(俺は……お前に、負けた)
完全に。
お前の優しさに、
お前の強さに、
お前の存在に。
もう、逃げられない。
リヴァイは、ゆっくりと拳を開いた。
掌に、血が滲んでいる。
(生きて……お前たちの分まで)
イザベル。
ファーラン。
お前たちが笑った世界を、
守る。
ユキノと、一緒に。
その決意だけが、
今、胸に残っている。
リヴァイは、闇の中で、静かに息を吐いた。
涙は、流さない。
ただ、
明日から、また刃を握る。
ユキノのそばで。
二人で、
失ったものを、取り戻すために。
(待ってろ)
イザベル。
ファーラン。
俺は、まだ終わってない。
ユキノと、一緒に――
戦う。
リヴァイは、ゆっくりと歩き出した。
闇の中を、
医務室の灯りのある方へ。
ユキノが、待っている。
その温かさに、
もう、逃げない。