第5章 近づく距離
リヴァイは馬舎を出て、誰もいない訓練場の端まで歩いた。
朝の風が頰を冷たく撫でる。
掌には、まだガストの体温と、ユキノの手の感触が残っている。
ユキノの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
「もう……私に教えることはありません」
「……三人とも、自分でここまで来たんです」
(……自分で、だと?)
壁に背中を預け、ゆっくりと目を閉じた。
胸の奥が、静かに、だが激しく疼いていた。
これまで、誰かに「教わる」ことなどなかった。
地下街では、教わる隙があれば死ぬ。
すべてを独学で、血を流して、命を賭けて身につけてきた。
立体機動も、殺し方も、生き延び方も。
それが、自分の誇りだった。
なのに。
ユキノから教わったこの数週間で、
何かが、確実に変わった。
馬の手綱を握る感触。
生き物を信頼し、信頼される感覚。
力ではなく、静かな約束で動く存在。
(あいつは……俺に、そんなものを教えてしまった)
ユキノの教え方は、決して強制しなかった。
急かさず、叱らず、ただ待って、褒めて、
自分が気づくまで、そばにいてくれた。
それが、たまらなく腹立たしかった。
同時に、たまらなく――怖かった。
(俺は……あいつの優しさに、慣れちまった)