第5章 近づく距離
イザベルが「わあっ!!」と飛び跳ね、
ファーランが「へえ……」と小さく笑った。
ユキノは少し頰を赤らめながら、首を振った。
「違います。私がしたのは、ただそばにいただけ。
三人とも、自分でここまで来たんです」
馬舎に、しばらく沈黙が落ちた。
それは、重い沈黙ではなく、
温かく、満ち足りた静けさだった。
イザベルが突然、ユキノに抱きついた。
「ユキノお姉さん、ほんとにほんとにありがとう!! 私、壁外で絶対一緒に走るからね!!」
ファーランが立ち上がり、軽く頭を下げた。
「俺も……感謝してる。
お前がいなけりゃ、ここまで来れなかった」
そして、リヴァイ。
彼はゆっくりと近づき、ユキノの前で立ち止まった。
無言で、右手を差し出した。
ユキノは一瞬驚いて、それから――
その手を、優しく握り返した。
リヴァイの掌は、相変わらず固くて、熱かった。
でも、もう震えてはいなかった。
「……悪くねぇ」
リヴァイが、ぽつりと呟いた。
それは、彼なりの、最大の賛辞だった。
ユキノは胸が熱くなって、目を細めた。
「ありがとうございます」
三人の馬が、同時に鼻を鳴らした。
まるで、お祝いするように。
ユキノは三人を見て、心の中で呟いた。
(もう、教えることはないけど……
これからは、一緒に走れます)
壁外調査が近づいている。
その時、四人は並んで馬を駆り、
壁の外へ向かうだろう。
リヴァイの刃が道を切り開き、
イザベルの笑顔がみんなを励まし、
ファーランの策が道筋を示し、
ユキノが命を繋ぐ。
ユキノは母のイヤリングに触れ、静かに微笑んだ。
(お母さん……見ててね)
朝の光が、馬舎を優しく包み込んだ。
地下街の三人と、壁育ちの少女は、
もう、完全に――
仲間になっていた。