第5章 近づく距離
ユキノは、母のイヤリングにそっと触れながら、微笑んだ。
「もう……私から教えることはありません」
一瞬、馬舎が静かになった。
イザベルが目を丸くする。
「えっ!? どういうこと!?」
ユキノは優しく続けた。
「あとは、練習あるのみです。
三人とも、もう完全に馬を理解してます。
私より上手に扱えてる部分だって、
たくさんあります」
ファーランが小さく息を吐き、苦笑いした。
「……そう来るか」
イザベルは少し慌てたようにルナの首に抱きついた。
「でもでも! ユキノお姉さんが教えてくれないと、なんか寂しいよ!」
ユキノはイザベルの頭を優しく撫でた。
「練習を見守るのは、これからもしますよ。
ただ、もう『教える』立場じゃなくなっただけ」
そして、ユキノはリヴァイを見た。
リヴァイは無言で、ただじっとユキノを見つめ返している。
いつもの無表情の奥に、何かが揺れているのが、ユキノにはわかった。
ユキノは静かに、でもはっきりと言った。
「リヴァイさん……
あなたは、もう誰よりも馬を信頼できるようになりました。
ガストも、あなたの手綱を心地よいって言ってます」
リヴァイの瞳が、わずかに揺れた。
彼は短く、低く呟いた。
「……お前のおかげだ」
それは、三人が聞いた中で、
リヴァイがユキノに贈った、初めての素直な感謝だった。