第5章 近づく距離
自分は、母の形見を揺らし、屋敷の庭で優雅に立体機動を練習し、
宝石を身につけ、馬を愛し、穏やかな時間を過ごしてきた。
リヴァイさんは、地下街で生きるために、血と泥にまみれてきた。
イザベルちゃんやファーランさんを守るために、すべてを削ぎ落としてきた。
自分の世界と、彼の世界は、決して交わらないと思っていた。
なのに。
今日、リヴァイさんは私の言葉をちゃんと聞いてくれた。
手綱を優しく握り、馬の動きに身体を預け、
ガストが安心して歩けるように、少しずつ力を抜いていった。
あの無表情の奥に、必死に何かを抑えているものがあること――
ユキノには、なんとなくわかった。
(リヴァイさんは……変わりたくないのに、変えようとしてる)
イザベルちゃんのため。
ファーランさんのため。
そして、壁外で三人一緒に立つため。
それが、どれだけ彼にとって苦しいことか。
自分には想像もつかない痛みを、抱えていること。
ユキノは母のイヤリングにそっと触れた。
母が最後に言った言葉を思い出す。
「あなたが本当に守りたいものが見つかった時、力を貸してくれるわ」
今、ユキノはわかっていた。
自分が守りたいものは、
戦場で命を繋ぐことだけじゃない。
リヴァイさん、イザベルちゃん、ファーランさん
調査兵団の仲間たちみんなが、
笑顔で、生きて帰ってこれる未来。
そのために、自分は医官として強くなる。
立体機動も、深夜の格闘も、すべてはそこに繋がっている。