第5章 近づく距離
【主人公の視点】
馬舎の柵に軽く寄りかかり、ガストの首筋をゆっくり撫でながら、遠ざかるリヴァイの背中を静かに見送っていた。
朝の冷たい空気が頰を撫でる。
掌には、まだリヴァイの腰を支えた時の感触が残っている。
固く、でもどこか震えを抑えているような――地下街で鍛えられた、鋼のような緊張感。
(……リヴァイさんが、私に教わりに来てくれた)
その事実が、胸の奥で静かに、でも確実に波を立てていた。
馬舎で彼の姿を見た時、ユキノは驚かなかった。
影から見ていることは、なんとなく気づいていた。
イザベルちゃんやファーランさんの練習を見守る視線が、時折自分にも向けられていること。
でも、今日――
「教えろ」と、短く、でもはっきり言われた時、
心のどこかが熱くなった。
リヴァイさんは、誰かに頭を下げる人じゃない。
人類最強と呼ばれる兵士。
地下街の闇で、すべてを力で切り開いてきた人。
それなのに、私なんかに――
壁育ちの、ただの医官見習いに。
(どうして、来てくれたんだろう)
ユキノはガストの耳元に顔を寄せ、小さく息を吐いた。
最初は、苛立ちだと思っていた。
訓練場で出会った時、リヴァイさんの視線には明らかなライバル心と、どこか冷たい拒絶があった。
自分のイヤリングを見た時の、あの鋭い目。
壁の中で育った自分を、どこかで軽蔑しているような。
それが当然だと思っていた。