第1章 出会い
――不条理への怒り。
この世界は、いつだって不平等だ。
生まれで決まる。
壁の中で生まれたか、外か、下か。
自分たちは這い上がるために、血と泥にまみれてきた。なのに、壁育ちのガキが、宝石を揺らしながら同等の高みに立っている。
(許せねぇ)
ユキノがこちらに気づいて、軽く会釈した。
穏やかな笑顔。
清潔な制服。
すべてが、リヴァイの育った世界と正反対。
その笑顔が、余計に胸をえぐる。
ハンジがまた大声で続ける。
「ユキノちゃんもすごいんだよ! 医官見習いなのに、あの機動性はもう――」
「うるせぇ」
リヴァイの声が、低く、凍りつくように響いた。
食堂の空気が、一瞬で張り詰める。
ハンジが目を丸くする。
イザベルが息を呑む。
ファーランが眉を寄せる。
リヴァイは立ち上がった。
トレイを乱暴に置く音が、響く。
視線をユキノに向けたまま、一言。
「……邪魔だ」
それはハンジに向けた言葉のはずだった。
だが、本当は――。
ユキノに向けたものだった。
彼女の存在そのものが。
宝石が。
笑顔が。
才能が。
すべてが、リヴァイの生きてきた証を否定するように思えた。
廊下に出て、壁に背中を強く打ちつける。
息が荒い。
拳が震えている。
(クソが……クソが……!!)
地下街の闇で、誰も追いつけなかった自分が。
ここでは、ただの新入りでしかない。
壁育ちの医官見習いにさえ、並ばれている。
それが、たまらなく腹立たしい。
だが同時に――。
胸の奥で、もう一つの感情が蠢いていた。
(……だったら、ぶち抜いてやる)
宝石を揺らす女だろうと、距離を詰めてくるうざい研究員だろうと。
すべてを、超えてやる。
それが、リヴァイの答えだった。
苛立ちは、静かに、だが確実に闘志へと変わっていく。
地下街の狼は、壁の中でも、決して牙を隠さない。
――ただ、今はまだ、その牙を研いでいる最中だった。