第1章 出会い
食堂の喧騒が、リヴァイの耳にはただの雑音にしか聞こえなかった。 スープの温かさすら、地下街の冷たい空気を思い出させて、吐き気を催す。
ハンジの声が、すぐ横から容赦なく降ってくる。
「ねえリヴァイ! 地下街ってどんなところなの? 立体機動で逃げる時って、壁や屋根をどう使ってたの? 教えてよー!!」
距離が近い。
息がかかる。
眼鏡越しの瞳が、好奇心で輝いている。
(……触るな)
リヴァイの背筋に、ぞくりと嫌悪が走った。
地下街では、こんな風に無防備に近づいてくる人間は二種類しかいない。
敵か、死にたがりか。
ハンジは明らかに後者ではない。
ただの、壁の中で育った無知な好奇心の塊だ。
それが、余計に苛立つ。
生きるために距離を取ってきた。
誰にも心を許さない。
イザベルとファーランだけが例外だった。
なのに、こいつは初対面で土足で踏み込んでくる。
(お前みたいなのに、俺たちの世界がわかるはずねぇだろ)
指先が、トレイの縁を強く握りしめる。
爪が食い込むほどに。
そして――視線が、再び隣のテーブルに吸い寄せられた。
ユキノ・ベリスタ。
彼女が髪をかき上げた瞬間、朝の光が青い宝石を捉えて、鋭く閃いた。
小さなイヤリング。
ただの装飾品。
壁の中では、ありふれたものなのかもしれない。
だがリヴァイにとって、それは。
――すべてを象徴していた。
地下街で、母親が最後に持っていた指輪を思い出す。
食うために売った。宝石なんてものは、生きるための対価でしかなかった。飢えをしのぐパンと引き換えに消えた。
なのに、目の前の少女はそれを耳に揺らしている。
当たり前に。
何の痛みも知らずに。
しかも――。
昨日、訓練場であの動きを見せた。
自分と同じ、いや一部では上回るほどの立体機動。
(壁の中でぬくぬくと育って、親の金で装置を触りまくって……
そんなもんつけたまま、俺と同じ空を飛ぶのかよ)
胸の奥が、焼けるように熱くなった。
嫉妬ではない。
もっと汚くて、もっと原始的な感情。