第5章 近づく距離
なのに、今――
ユキノの前で、馬の背で、
初めて、その埋め合わせができないことを、痛いほど思い知らされた。
(あいつに……教わってる)
人類最強と呼ばれる自分が、
壁育ちの医官見習いに、
馬を扱う術を、信頼の与え方を、
教わっている。
屈辱的だ。
(……クソっ)
まだ、まだだ。
あいつのようには、なれない。
優しくなんて、なれない。
だが――。
ガストが柵越しに鼻を伸ばしてきた。
リヴァイは無意識に手を出し、首筋を軽く撫でた。
馬が満足げに目を細める。
その瞬間、胸の奥で、小さく、何かが溶けた。
(……明日も、来る)
ユキノに教わるために。
馬を扱うために。
そして――
少しずつ、自分に欠けているものを、
埋めるために。
認めたくない。
だが、もう、逃げられない。
ユキノ・ベリスタの存在は、
リヴァイの心の奥底に、静かに、だが確実に、
根を張り、芽を出し始めていた。
葛藤は、痛いほど深い。
だが、その痛みが、
リヴァイを、少しずつ、前に進ませようとしていた。