第5章 近づく距離
ガストが自分を乗せて歩いた時、
ユキノが横で「いいです、その調子」と静かに声をかけた時、
何か、違うものを感じた。
力じゃないもの。
優しさでもない。
ただ、そこにいてくれる――という、
静かな確かさ。
(あいつは……どうやって、そんなものを自然に与えられるんだ)
ユキノの教え方は、決して強制しない。
急かさない。
間違えたら叱らず、ただ「次はこうしてみましょう」と、待つ。
イザベルが笑ったのも、ファーランが穏やかになったのも、すべて、あの教え方のせいだ。
自分には、絶対にできないこと。
(俺は……あんな風に、仲間を導けねぇ)
守ることしか、できなかった。
命を賭けて、血を流して、切り裂いて。
だが、導くこと――
未来を、喜びを、信頼を、与えること――
それが、自分には欠けている。
ユキノは持っている。
壁の中で育ち、母の思い出を胸に、
馬を愛し、仲間を優しく包み込む。
それが、羨ましい。
憎らしい。
認めたくない。
(……俺は、欠けてる)
その事実が、たまらなく苦しい。
地下街で失ったものは、多すぎる。
母親の温もりも、穏やかな時間も、
信頼という感覚も。
すべてを、強さで埋めてきた。