第5章 近づく距離
リヴァイはガストの鞍から降り、静かに手綱をユキノに返した。
朝の空気はまだ冷たく、馬の体温が残る掌が、妙に熱く感じられた。
ユキノが笑顔で言った言葉――「本当に、すごいです」――が、耳の奥で反響している。
(……すごい、だと?)
リヴァイは無言で馬舎の柵に寄りかかり、遠くの訓練場を見つめた。
表面上はいつもの無表情。
だが、胸の奥は嵐のように乱れていた。
馬の背中に乗った瞬間、確かに感じた。
生き物の鼓動。
自分を載せ、歩いてくれる温かい存在。
地下街では、生き物はすべて敵だった。
ネズミすら、食料を奪う競争相手。
人を信じることすら、命取りになる。
なのに、この馬は――ガストは――
ただ優しく触れ、名前を呼んだだけで、
自分を乗せてくれた。
ユキノの言葉が、頭の中で繰り返される。
「馬は力で押さえつけるものじゃないんです。
信頼で、動いてくれるんです」
(信頼……)
その言葉が、鋭く胸を抉る。
自分は、誰からも信頼されたことなんてないと思っていた。
いや、信頼なんて必要なかった。
強さだけで、イザベルとファーランを守ってきた。
力で、周りを従わせてきた。
それで十分だったはずだ。
なのに。