第5章 近づく距離
次に、ユキノは馬の身体全体を触る順番を教えた。
首→背中→腹→脚。
どこを触ると安心するかを説明する。
リヴァイは無言で真似た。
動きは機械的だが、正確だった。
地下街で培った観察力が、ここでも発揮される。
ガストはすぐにリヴァイを認め、
鼻をすり寄せてきた。
ユキノが小さく笑った。
「ガストが気に入ったみたいです。リヴァイさんの手、落ち着いてるから」
リヴァイは「……ふん」と鼻を鳴らしたが、指先がわずかに緩んだ。
そして――乗馬。
ユキノが鐙を指し、リヴァイの腰を軽く支えた。
「左足をここに。体重をゆっくり移して。
私が横にいますから、怖くないですよ」
リヴァイは一瞬、ユキノの手を意識した。
温かい。
優しい力加減。
(……クソ、集中しろ)
彼は無言で鞍に跨った。
高い視点。
馬の背中の温もり。
生き物の鼓動が、直に伝わってくる。
ユキノが下から見上げて、静かに言った。
「まずは馬の動きに合わせて、
身体を預けてみてください。
力まないで。
ガストが乗せてくれてるんです」
リヴァイは手綱を握り、ユキノの指示通りに軽く踵を入れた。
ガストがゆっくりと歩き出す。
最初はわずかにバランスを崩したが、すぐに修正した。立体機動で培った重心移動の感覚が、ここでも活きた。
ユキノが横を歩きながら、声をかけ続ける。
「いいです。その調子。手綱は優しく。
馬は力で押さえつけるものじゃないんです。
信頼で、動いてくれるんです」
その言葉が、リヴァイの胸に小さく刺さった。
(信頼……か)
地下街では、信頼なんてものは力でしか得られなかった。弱さを見せたら、即座に裏切られる世界。
なのに、目の前の馬は、ただ優しく触れられただけで、自分を乗せて歩いてくれる。